訪問診療マネジメントガイド上梓のお知らせ
ようやく「訪問診療マネジメントガイド」を世に出すことができました。そこで、この本を書くことになった経緯についてコメントしたいと思います。
元々は、Zaitaku Hackerというサイトを当院で立ち上げ、在宅医療クリニックの経営に役立ちそうなヒントや私の開業ストーリーなどを連載しておりました。在宅医療専門のクリニック開業にいくらかかるのかとか、経営が軌道に乗るまでに何をすべきかなど、外来主体の開業コンサルタントには無いノウハウを中心に発信していました。他には無い、リアルなクリニック経営の話題が好評だったのか、学会に参加する度に、「毎回、楽しみにしているよ!」「面白いね!」とよく声をかけられて経営の相談をされたり、自院の見学を希望される医師が増えてきました。医師の反応を聞く度に、自身が院長になった場合に経営に対する漠然とした不安を持っているんだということがよくわかりました。じゃあ、経営を勉強すればいいじゃないかということになりますが、実は医師の開業に特化して系統的に学べる機会はそんなに多くはありません。ましてや在宅医療となると、私が知る限りでは、愛媛県松山市のたんぽぽクリニックぐらいだと思います。
そこで、これまでに見学に来られた先生方に説明してきた内容を形式知化できないかと考えていた矢先に、Zaitaku Hackerを読まれた日本医事新報社の磯辺さんから書籍化についてお声がけいただきました。2017年の初春でした。是非ともと引き受けたのですが、ここからが生みの苦しみの連続でした。骨子を練る初期の段階から苦しみが始まっていたのです。理由の一つ目は単なる開業時の表面的なノウハウだけでは院長が今後知らなくてはならないマネジメントの壁が見えず、クリニックの成長が止まってしまう恐れが出ること、もう一つは自身の失敗や成功体験だけでは汎用性に乏しいノウハウになってしまうことです。一つ目に対しては、開業前・開業1年目を超えて、3〜5年のスパンでどのようなことが起こりうるかを院長の心構えとして赤裸々に書かせていただきました。特に組織の問題は、究極は対人関係の問題ですので、どうしても感情的に反応せざるを得ない局面があります。実は、執筆完了に2年半かかったのは、組織づくりに自信を失いかけためでもあります。おかげで、組織の部分は自省を込めたため、初期の構想よりかなりページ数が増えてしまいましたがかなり充実していると思います。もう一つの自身の経験だけで語る危険性については、在宅医療界のみならず、医療界で私が尊敬する方々に執筆をお願いすることで汎用性を担保できたと思います。特に、院長のパートナーとしての事務長の重要性を痛感していましたので、私自身が開業時に多大な影響を受けた、たんぽぽクリニックの木原さんに事務長学を執筆していただきました。おかげで、この本をユニークな存在にできたと確信しております。
在宅医療に限らず、クリニック経営というものは、院長自身がマネジメントをやり抜く覚悟が必要です。覚悟と言っても、悲壮感や闘志は不要で、はずみ車を回すような気構え(私にとっての名著「ビジョナリー・カンパニー2」からの引用です。)で悠々と臨めば、路は必ず拓けると思います。その際に、少しでも本書が良き道案内になれば嬉しいです。院長になればわかりますが、マネジメントは本当に奥が深く、自身を成長させてくれるんですよね!
姜 琪鎬